東京高等裁判所 昭和53年(う)1039号 判決
被告人 ルイス・エヌ・ナルテ
〔抄 録〕
所論は、要するに、原判決は、被告人が石川邦雄に譲り渡した原判示第四の日本専売公社の売り渡さない外国製紙巻たばこラーク二カートンにつき、その公示販売価格相当の五六〇〇円を被告人から追徴する言渡をしなかったのは、たばこ専売法七五条の法令の解釈適用を誤ったもので、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから原判決は破棄を免れない、というのである。
そこで、検討してみるのに、原判決は、所論指摘の追徴の言渡をしなかった理由として、本件たばこが、石川邦雄に対する通告処分により、昭和五二年一二年七日没収されて国庫に帰属している事実を認定したうえ、「同一犯罪物件について関係犯則者の一人から当該物件が没収されこれが国庫に帰属している場合においては、没収の対世的効力からして、他の関係犯則者に対し、当該物件の没収ないし没収に代わる追徴をなすことは許されず、このことはたばこ専売法違反における没収、追徴についても同様に解されるべきであって、同法における追徴にのみ別異の解釈をとることは相当でない」と判示し、更にこれを補足し、「もともと追徴は没収に代わるものであって(補充的性質)、たとえ数人の者に対しそれぞれ追徴を命じた場合においても、国が追徴しうるのは没収されるべき物の価格以上に及ぶことを得ず、追徴を命ぜられた者の中の一人または数人が既に追徴金の全部または一部を納付したときはその納付ずみの部分について更に重ねて他の者から納付させることはできない性質のものであり、ましてや、当該物件自体が没収されて国庫に帰属した以上、他の者に対し没収物の価格に相当する追徴金を科することは許されない。」旨説示している。
思うに、たばこ専売法七五条は、国がたばこの専売を独占し、もって国の財政収入を確保するため、不正たばこの販売などの犯則行為を抑止禁圧する目的で、特に必要的没収及び必要的追徴の規定を設けた趣旨と解される。このようなたばこ専売法における追徴制度の趣旨及び目的に徴すれば、同法七五条一項所定の物件が他に譲渡されたときは、現に譲受人の手元に存する犯則物件そのものを没収し、又は同人からこれに代るべき価額を追徴すれば足りるとするものではなく、犯則を犯した者に対し懲罰的制裁を科する趣旨を含めて、譲渡人に対しても、その手元に保留されている利益を、その所得に帰せしめることのないように、これを必要的に追徴すべきものと解するのが相当であるから、その譲受人から犯則物件を没収できる場合であるからといって、その譲渡人がその物件の価額の追徴を免れることはできない(最高裁昭和三一年(あ)第一一六一号同三三年四月一七日第一小法廷決定・刑集一二巻六号一〇五八頁、最高裁昭和二九年(あ)第三一七七号同三五年一二月六日第三小法廷決定・裁判集刑事第一三六号三四頁、最高裁昭和三五年(あ)第二六二四号同三八年九月一八日第二小法廷決定・刑集一七巻八号一七一五頁参照)。そしてこの理は、譲受人に対する通告処分により当該犯則物件が没収され、既に国庫に帰属するに至った場合においても結論を異にするものではない。
してみれば、原判決がこれと異なる法律上の見解に立脚し、被告人において、石川邦雄に対し原判示第四のたばこを譲り渡した事実を認定しながら、その価額(記録によればその公示販売価格は五六〇〇円と認められる。)を追徴しなかったのは、法令の解釈適用を誤ったものというべく、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。
(藤井 寺沢 永井)